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2021年9月28日
日本銀 行
総 裁 記 者 会 見 要 旨
―― 2021年9月27日(月)
午後4時30分から約35分
(大阪市・東京間オンライン開催)
(問) まず、先ほどの懇談会で関西の経済4団体から資金繰りへの引き続き
の支援ですとか、大阪・関西万博への後押しといった意見・要望がございまし
た。それについての総裁の考えをお願い致します。続いて、関西の景気の現状
と先行きについての総裁の所感、以上二点についてよろしくお願い致します。
(答) 今回も、新型コロナウイルス感染症の影響が続く中で大阪訪問が叶わ
なかったことは大変残念でしたが、オンライン形式で実現した本日の懇談会を
通じて、関西経済界を代表する方々から、当地の経済金融の現状と課題、ある
いは日本銀行の金融政策運営に関する率直なご意見・ご要望を数多く頂きまし
て、大変有意義な意見交換ができたと考えています。この場をお借りして、改
めて御礼申し上げたいと思います。席上で伺ったお話やご意見・ご要望につい
て、私なりに三点に整理しながら、印象、感想を申し上げたいと思います。
第一が、新型コロナウイルス感染症の関西経済への影響です。懇談会
では、関西経済は海外経済の回復を背景に、輸出や生産、設備投資などは堅調
であり、全体としても持ち直しているものの、飲食・宿泊・観光などの対面型
サービス業では依然として厳しい状況が続いていると の声が多く聞かれまし
た。また、先行きについては、堅調な輸出に支えられて持ち直しが続くとの見
方や、ワクチン接種の進展と新規感染者の抑制が景気回復につながることを期
待する声が聞かれた一方で、感染力の強いデルタ株が拡大するもとで、東南ア
ジアからの部品調達の停滞などを懸念する声も聞かれました。こうした情勢を
受けて、日本銀行に対しては、資金繰り支援の継続など、企業金融の円滑確保
に関するご要望を多く頂きました。日本銀行としては、本年 6月に「新型コロ
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ナ対応資金繰り支援特別プログラム」を来年 3月末まで延長しましたが、今後
も、企業金融の動向を丁寧に点検して、しっかりと支えていく考えです。
第二に、コロナ後の成長に向けたデジタル化と気候変動問題への対応
についてです。懇談会では、デジタル化の重要性が指摘されるとともに、ビジ
ネスやモノつくりの現場においてデジタル・トランスフォーメーションが進み、
労働生産性の向上につながっている事例が紹介されました。また、気候変動問
題については、国際競争力を維持するためにも、脱炭素化に向けたイノベー
ションが重要といった指摘、あるいはグリーン・トランスフォーメーションを
支える蓄電池、燃料電池、水素技術といった日本の得意とするテクノロジーを
成長戦略の柱にすることも必要といった指摘が聞かれました。一方で、中小企
業は専門知識や人材が不足しており、支援が必要との指摘もありました。この
点、日本銀行は、金融機関による多様な気候変動対応の投融資をバックファイ
ナンスする気候変動対応オペを創設して、先週の金融政策決定会合では、その
詳細を決定しました。今後、オペ先を選定し、12 月下旬には、初回のオペをオ
ファーする予定です。当地金融機関の代表からは、カーボンニュートラルの実
現を金融面から支援する様々な取り組みを拡げてきており、日本銀行の制度の
活用を検討しつつ、持続可能な社会の実現に取り組んでいきたい、といった声
が聞かれ、大変心強く感じた次第です。
最後に、2025 年に開催される大阪・関西万博についてです。懇談会で
は、関西経済はもとより日本経済が飛躍するためのスプリングボードになると
いった声や、関西企業が得意とする医療・健康・新エネルギーといった次世代
をリードする産業の発展の契機として重要といった声が聞かれました。また 、
万博会場となる夢洲を未来社会の実験場として、既に複数の実証実験が開始さ
れているとのお話も伺いました。日本銀行としても、日本経済の成長力向上に
つながるイノベーションの創出、先端技術の開発ということは大変重要と考え
ていますので、 大阪・関西万博はその大きな契機となることを期待しています。
次に、関西経済の現状と先行きですが、先ほど来申し上げています通
り、関西経済は全体としては持ち直していますが、夏場の新型コロナウイルス
感染症の感染拡大や緊急事態宣言の影響から、消費への下押し圧力が強まって
いる状況にあります。すなわち、輸出や生産は、海外経済の回復やデジタル化
の進展などを背景に、電子関連部品や一般機械を中心に増加基調にあります。
設備投資も、企業収益の改善を受けて増加しています。一方、消費は、持ち直
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しが一服しているほか、昨年まで関西経済を支えてきたインバウンド消費が大
幅に減少した状態が続いています。先行きの関西経済については、海外経済の
回復を背景に、全体として持ち直し基調を続けていくとみていますが、半導体
の不足や東南アジアにおける感染症拡大が供給制約を強めるリスクのほか、国
際商品市況が企業収益を下押しするリスクなどについても留意が必要です。ま
た、今後の感染動向が消費に与える影響についても、引き続き注視が必要だと
思います。
更にやや長い目でみますと、世界的に加速するデジタル化、脱炭素化
の動き、あるいは、2025 年に開催される大阪・関西万博が、関西経済の更なる
成長の原動力になり得ると考えています。第一に、デジタル化については、電
子関連部材を中心に、関西の企業が強みを持つ分野です。足許では、データセ
ンターや5G関連の需要が増加しているほか、将来の需要に応えるための能増
投資や研究開発投資も積極的に行われています。 第二に、 脱炭素化については、
世界的な自動車のEV化の動きを受けて、当地の関連部材メーカーの輸出が増
加しつつあります。エネルギー面でも、当地が高いシェアを有する水素の本格
利用に向けた取り組みが進められています。また、当地でも、温室効果ガスの
排出量が大きい重化学工業などで、新たな製造手法の検討が始められています。
関連する研究開発投資も増加しています。 第三に、 大阪・関西万博は、 主要テー
マであるライフサイエンスに加えて、デジタル化や脱炭素化に関する社会的実
証実験が予定されるなど、各分野でイノベーションが加速する大きな契機にな
ることが期待されています。また、万博開催に合わせた都市再開発や交通イン
フラ整備、高級ホテルの建設などは、当地の都市機能や観光インフラの高度化
につながると考えています。従って、こうした様々な取り組みが、関西経済の
発展につながっていくだろうと期待しています。
(問) 関西経済の中で、良い面、悪い面、おっしゃって頂いたのですが、特
に中小企業をイメージしたときに、一つは、原材料価格の高騰で価格転嫁でき
ていない中小企業があり、調査で触れられておりましたけれども、中小企業・
製造業企業の 9 割以上が価格転嫁できてなく、それがかなり厳しい状況を続け
ています。その中で、総裁がおっしゃったように、やや長い目で見れば挽回生
産や在庫復元の動きなどに支えられて増加基調は続いていかれるだろうとい
うふうに思うのですが、このスパンというのはどれくらいをみておられるのか、
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もしお考えがあるようでしたら教えてください。また、リスケジュールがたく
さん出てきていまして、今後の倒産などが心配されるところですが、金融面か
らの支援というところで、総裁のお考えをお聞かせ頂ければと思います。
(答) 確かに、私が懇談会で申し上げたように、企業の価格転嫁、特に中小
企業を含めたところの生産者段階にある企業物価は上がっていても、その先が
なかなか上がらないという価格転嫁の問題があることはよく承知して います。
懇談会で申し上げた通り、足許では、国内企業物価が 5%を超える伸びになっ
ており、これはモノもそうですが、企業のサービス価格も、同様に上昇してい
ます。従って、生産者段階のモノ・サービスの価格は上昇していますが、その
先がなかなか上がりません。ただ、一定のフォーミュラに従ってコストを転嫁
する慣行が定着している素材産業、特にエネルギー関係では、既に速やかに価
格を上げています。他方、最終需要に近い加工業種、消費関連業種では、ここ
に中小企業が多いのですが、コストの増加をマージンの縮小によって吸収する
傾向が強く、なかなかコスト転嫁を理由とする値上げの動きがこれまでのとこ
ろ拡がっていません。
こうした企業の慎重な価格設定の背景には、以前から申し上げている
通り、過去のデフレの経験から物価が上がりにくいことを前提とした考え方や
慣行が経済主体に定着していること、いわゆる適合的期待形成の強さが挙げら
れています。これがどのくらいのタイムスパンで克服され、価格転嫁がスムー
ズに行われていくかについては、二つの要素があると思います。一つは、新型
コロナウイルス感染症の流行が収束していくペース 次第では、消費需要が高
まっていき、更にペントアップ需要まで含めると、かなり急速に消費需要が高
まっていくことが期待されますが、そのタイミングがどうなるのかということ
です。これは感染症のピークアウトがど のようなタイミングで起こるかにか
かっているわけですが、現在政府が目標としている、10、11 月に、希望する全
国民が二回のワクチン接種を終えるというような状況になれば、当然のことな
がら、新規感染も減りますし、ワクチンは特に重症化を防ぐ効果がありますの
で、医療の逼迫ということもなくなるので、政府の緊急事態宣言やまん延防止
等重点措置もおいおい解除されていくというようなことも予想されます。そう
した中で消費が、特に対面型サービスを中心に回復してくることが期待され、
先ほど申し上げたようなことから言えば、早ければ年内、遅くとも来年早々に
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は感染症がピークアウトして、人々の外出 や外食、宿泊などが拡がっていき、
より消費段階の価格への転嫁も容易になってくるということだと思います。
もう一つは、特に生産者段階の物価は、国内要因というよりも国際的
な、商品市況が物凄く上昇する、あるいは東南アジアの新型コロナウイルス感
染症の拡大などによる部品の供給が停滞する などによって影響を受けている
部分がありますが、これは一時的なものであると思います 。国際商品市況も、
やや落ち着いてきつつありますが、落ち着いてくると思いますし、供給不足か
ら部品等の価格が上がるということも収束していくと思いますので、その面か
らも、大幅な価格の転嫁をしなければならないということがなくなってくると
思います。そういう意味では、両方とも、希望的に言えば年内に収束して、年
内にそのような状況になってくるということになろうかと思いますが、感染症
の状況や、先ほど申し上げた供給制約やその他商品市況の価格の沈静化のタイ
ミング次第では、来年の初めの方にずれ込むかもしれません。ただ、非常に困
難な状況は、基本的には非常に長く続くというよりも、一時的なものだと思い
ます。他方で、企業の価格設定スタンス自身が、はっきりいえば予想物価上昇
率自体が例えば 2%に上昇していくのは、これまでの経験からいってもそう簡
単ではありません。需給ギャップもプラスになり、様々な要因から物価も上昇
し、そして予想物価上昇率も上昇していくという形になっていかなければなり
ません。企業物価が上がっているのに消費者物価が上がらないという、価格転
嫁が十分にできていないという今の状況はかなり緩和されると思いますが、消
費者物価自体が 2%に向けて上昇していくのはかなり緩やかなものになると考
えています。
(問) 先週の記者会見でも質問があった内容で申し訳ないのですが、総裁の
在任期間が 29 日で歴代最長となります。29 日で一萬田総裁の在任日数を超え
ることになるのですが、一萬田総裁は終戦直後よりインフレ抑制に努めて、影
響力の大きさから法王と呼ばれている方ですが、その方の在任日数を超えるこ
とについて、総裁個人の思い、また感想があればお聞きできればと思います。
(答) 私自身は、日本銀行の総裁を拝命してから 8 年半程度になります。こ
の間、物価の安定と金融システムの安定という、日本銀行法に書かれている使
命を果たすべく様々な施策に取り組んでまいりました。今後とも、わが国の中
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央銀行総裁として、日本経済の持続的な成長に貢献するよう、最大限の努力を
続けてまいる所存ということに尽きると思います。
(問) 今のご質問に関連してなのですが、8 年半、かなり長い期間だと思う
のですが、これまでに成し遂げられたこと、もしくは、残り任期1年半で残さ
れた課題、これは日銀の金融政策だけではなくて、広く日本経済にとって、成
し遂げるべき課題だと思われる点はいかがでしょうか。
(答) この点は、今年3月の点検でもかなりシミュレーション分析などを行
い、定量的にも示されていますが、「量的・質的金融緩和」、特に「長短金利
操作付き量的・質的金融緩和」の効果については、それらを実施しなかった場
合と比べて、経済成長率を引き上げ、消費者物価の上昇率も引き上げ、特に雇
用の拡大をかなりもたらしたことが示されています。もっとも、残念ながら、
2%の「物価安定の目標」はまだ達成されてないということはありますので、当
然のことながら残された 1 年半の任期においても、この 2%の「物価安定の目
標」の実現に向けて最大限の努力をするということに尽きると思います。
ただ、最新の展望レポートをご覧頂くと分かるように、展望期間の終
盤の2023 年度の消費者物価の上昇率も、1%程度との見込みになっていますの
で、2%の「物価安定の目標」を達成するのはかなり難しい状況になっていると
は思います。もっとも、そのことは、これまで行ってきた「量的・質的金融緩
和」あるいは「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」で様々な緩和の措置を
とってきたことが間違っていたということではなく、正しかったと思います 。
残念ながら、経済の状況が改善した割には物価が 2%には達していないという
ことであり、やはり引き続き、2%の「物価安定の目標」の達成に向けて、最大
限の努力をしていくということに尽きると思います。
(問) 先ほど、懇談会のやり取りで出席者の方からデジタル・トランスフォー
メーションの重要性というお話が出たということなのですが、黒田総裁として
も経済全体のデジタル・トランスフォーメーションを進展させていく必要があ
るというお話がございました。日銀としては、気候変動については新たなオペ
を始めるということなのですが、デジタル・トランスフォーメーションを経済
全体が進展させていくために日銀として新たなオペを作っていくと、こういっ
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た方針といいますか先行きこういったことをしていくというお考えはござい
ますか。
(答) 気候変動の問題については、よく言われていますように、外部性があ
り、市場経済に全て任せておいて適切な気候変動対応が十分できるかというと
できません。従って、政府が気候変動の対応策を作り、様々な政策を打ち出し
ていくことがどこの国でも行われています。その場合に日本銀行としても、気
候変動に対応するような投資を行う企業に対する金融機関の融資について
バックファイナンスを行い、それを促進させることは意味があると思いますし、
中央銀行としてのマンデートの範囲内だと思っています。
DX全体については、そもそもそうした市場の外部性はそれほど大き
いとは思われませんし、市場経済の中で様々なDX投資や対応が行われていま
すし、 行われていくと思っています。 もちろん、政府が何か租税特別措置といっ
たものを考える、あるいは技術開発について特に何か考えるということはあり
得るとは思いますが、中央銀行として何かDXについて特別な措置を講じるこ
とは世界をみてもないと思います。他方、気候変動については、多くの中央銀
行が既に対応策を発表し、進めており、自ずと違いがあるかと思います。もち
ろん、緩和的な金融状況を維持し、DX投資、研究開発投資なども含めたもの
が全体として促進されるということはあり得るとは思います。ただ、特別の制
度を中央銀行として作る必要があるとは思われないということです。
(問) 懇談会の冒頭に、出席者の方から国際金融都市について言及がありま
したけれども、大阪の国際金融都市の構想につきまして、どのような印象を持
たれたかということと、日銀としてどのように支援していくのか、それと、金
融特区について、大阪に金融特区をという声もありますけれども、どのような
ご意見をお持ちかお願いします。
(答) 国際金融都市としてのインフラ、 基盤は大阪も十分あると思いますし、
また、 東京も多分、 十分あると思いますが、そのうえで、 どのような政策をとっ
ていくかということになると、まさにご指摘のような特区といった議論はある
と思います。特区というのはどこの国でも、金融取引に関する租税特別措置の
ような話、あるいは金融規制の話ということになると思いますが、これはいず
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れも、政府の分担する範囲ですので、私から中央銀行として何か特に申し上げ
ることはありません。ただ、先ほど来申し上げた通り、大阪にはそうしたイン
フラ・基盤も十分整っていますし、国際金融都市として発展する余地は十分あ
ると思っています。
以 上