2018年5月25日
日本銀行
櫻井 審議委員記者会見要旨
―― 2018年5月24日(木)
午後2時30分から約35分
於 前橋市
(問) 本日の金融経済懇談会に出席された方々から、県内の経済についてど
のような意見や要望があったのか教えて下さい。
(答) 本日は群馬県の経済、行政、金融界を代表する方々から貴重なご意見
をお伺いしました。全体として、群馬県経済は、農業、工業、商業を含めて、
非常にバランスよく回復しているとの印象を受けました。また、人手不足が大
変深刻になっていると伺いました。その中で、中小企業 では、経済の回復に伴
うプラス効果の波及が遅れており、昨年くらいから漸くそうした効果が感じら
れるようになったとのご意見が聞かれました。一方で、まだかなり厳しいとの
ご意見もありましたので、少しばらつきがあるようにも感じました。 それから、
県の行政や各団体が協力して、新しい前向きな取り組み を進めており、大変心
強く感じるとともに今後の展開に期待したいと思っています。当地は大変地の
利がよく、交通の便やインフラが比較的しっかりしていると思います。人口も
あまり減ってもいませんので、全体としてプラスの印象を受けました。
それから、地元の金融界の皆様からは色々なご意見を頂きました。現
在の金融緩和のもとで日を追って経営が厳しくなっており、特にコア業務が厳
しいとのご意見を伺いました。また、皆様がそれぞれに新しいビジネスモデル
を求めてご努力をされており、例として、事業承継に関するアドバイス等をご
紹介頂きました。
(問) 本日のそうしたお話を踏まえて、委員として、群馬県経済の現況をど
1
のように捉えているのか、課題として感じる部分があればその 辺りを含めて、
お話頂ければと思います。
(答) 現状については、先程申し上げた通り比較的回復が進んでいるとの 印
象をもっています。特に当地では、中核となる工業として輸送用機械関連があ
り、輸出がそれなりに好調です。最近の人手不足に関しても、省力化投資であ
るとか、前向きな対応をしっかり進めているとの印象を受けました。こうした
点からは、わが国有数の生産拠点として、回復が進んでいる県の代表例になる
のではないかと感じています。課題としては、 やはり人手不足は深刻な問題で、
供給制約が生じつつあるとのお話も伺いました。中小企業に関しては、事業承
継の問題がはっきりと出てきていると感じました。この辺りは、県全体として、
行政、金融も含めて取り組まれることを期待したいと思います。
(問) 挨拶要旨では、当面は、現行の枠組みのもとで粘り強く緩和的な金融
環境の維持に取り組むことが適当とされたうえで、留意点を 2 つ挙げておられ
ます。その 1 つが、金融緩和の長期化による金融システムへの影響だと思いま
すが、地元の方からもお話があったと先程言及されましたけれども、例えば、
金融庁の資料等によると、2016 年度の決算で地域銀行106 行の過半数 54 行が本
業で赤字になっています。2017 年度はおそらくもっと厳しい状況ではないかと
思います。そうした中で、委員は、必要に応じて最適な金融政策のあり方につ
いて検討していくことが必要だと繰り返されていらっしゃいます。
まず、確認ですが、この最適な金融政策のあり方という 中には、長短
金利の変更なり、ETFの買入れ量の減額なりということが念頭にあるという
理解でよいのでしょうか。もう 1 点は、この「必要に応じて」について、必要
な状況が徐々に近づいてきているというご認識なのか、その 2 点をお願いしま
す。
(答) マイナス金利あるいは「イールドカーブ・コントロール」 が累積的な
効果を及ぼす中で、金融機関のコア業務の収益は低下してきています。もちろ
2
ん、金融界全体としては、まだそこそこ収益を上げています。自己資本比率の
水準等も勘案すると、当面大きな懸念材料にはならないであろうと考えていま
す。
今後の金融政策運営については、昨年末まで 8 四半期連続のプラス成
長が続き――本年第 1 四半期は季節要因もあってマイナス成長となり若干踊り
場のような雰囲気もありますが――先行きも 景気の回復が続くとみています。
そのプロセスの中では、副作用をきちっとみながら政策を執り行っていくこと
になります。では、具体的にどのような政策があり得るのかというご質問でし
たが、私は、全ての政策手段を含めて考えるべきだと思います。その意味では、
状況に応じて色々なことを考えていかなければならない と思います。タイミン
グについては、 私は、 今の景気の状況をもう少し続けたいと思っていますので、
まだ色々なことをやるには早すぎると思います。基本的には、ある程度今の状
況を続けて、慎重に様々な経済指標の動きを見極める段階にあると思っていま
す。
(問) 挨拶要旨の中で、金融政策のあり方については、現在のような適度に
需給の引き締まった状態を維持することを目指すべきだと述べられています。
また、そのために求められる金融政策は一律ではないとも述べられていますが、
この一律ではないという言葉の意味をもう少し噛み砕いて教えて頂け ますでし
ょうか。
(答) 過去長期にわたって、供給が需要を上回る状態が続いてい ましたが、
漸くここへきて需要が供給を若干上回ってきました。 需給ギャップは推計した
ものですから、ある程度幅をもってみる必要はあるものの、あまり大きくプラ
スになるとかマイナスになるということは避けるべきであろうと思っています 。
現在のようなある程度バランスのとれた状況を保ちつつ、供給サイドがきちっ
と対応できるような、生産性を上げていけるような状態を保っていくのがよ い
と考えており、そのために金融政策を維持することが大事だと考えています。
(問) 「イールドカーブ・コントロール」について、経済の実力が高まるに
3
つれて緩和効果が増幅されるとご指摘されています。 足許の経済状況は、2016
年 9 月に「イールドカーブ・コントロール」を導入した頃と比べても改善が進
んでいると思いますので、その分緩和度合いが強まっているということかと思
いますが、調整の必要性をどの程度お考えですか。
(答) 「イールドカーブ・コントロール」を導入してかなり時間が経ち、景
気の回復につれてだんだんと金融緩和の効果が強まる状況になってきたという
のは、理論的にはその通りだと思います。もっとも、物価の上昇は 想定よりも
遅れており、実質金利はまだそれほど大きく変化していません。従って、現在
の金融緩和をまだ続けないといけないと思います。物価にも動きが出始めれば、
金融緩和の効果が更に強まってくるということですから、そのようなタイミン
グでは色々なことを考えなければならなくなるだろうと思います。
(問) 需給ギャップについて、あまり大きくプラスでもマイナスでもよろし
くないというニュアンスの話をされましたが、日銀は、足許の需給ギャップに
ついては 1%台半ばとの試算を発表しています。 適度な需給ギャップという場合、
1%台とか 2%前後とか、委員としてレベル感をお持ちになられているのかどう
かをまずお聞きします。次に、挨拶要旨では、今後供給拡大のペースが減速し
ていく一方で、金融面から需要の刺激効果は強まっていくという話をされてい
ました。そうであれば、今後、需給は一段と引き締まっていくと思います。そ
の場合、現在の適度な需給のバランスを維持するために、長期金利目標を引き
上げるとか需要を調整するということは発想として考えられるのか、委員の発
想からすると検討されるべきであるということかと思うのですが、その点につ
いてお伺いします。
(答) まず需給ギャップのレベル感ということですが、ご指摘の通り最近は
1%~1.5%だと思います。先程も申し上げましたが、需給ギャップ自体は推計
値で、例えば稼働率だとか色々なものが入ってきますから、確信を持っていう
ことがなかなか難しいのですが、やはりある程度プラスを保っている方がよい
と思います。供給が需要に比べてかなり大きい状態だ と、なかなか景気が回復
4
しているということにならないと思います。 現在は、全体としてはバランスが
取れた状態に近いのではないかと思います。需要の方が 少し強いくらいだと、
設備投資を通じて生産性の引き上げ等を企業に促すインセンティブが強まるの
でよいように思います。もっとも、仮に需要を大幅に拡大するということにな
ると、色々な不均衡が溜まりやすくなると思われます。 現在は完全雇用に近い
状態にあり、稼働率も高水準にあります。レベル感というよりも、その時々の
経済指標を丹念に確認しながら考えていくということだろうと思います。
2 点目のご質問についてですが、最近は短観等をみても、供給制約への
対応として省力化投資や能力増強投資を含めて、色々な動きが出てきているよ
うに思われます。ただ、供給力を拡大させていくには、実は相当時間がかかる
と思います。需要は政策的に短期間で増やすことが できますが、供給力の拡大
は、構造的な変化を伴いますのでそう簡単ではありません。そのため、急がず
にゆっくりとやっていくことが大事だと思います。その点で、基本的に需給の
バランスを保つことに主眼をおきたいと思っています。
(問) 2019 年度の 2%達成時期の削除はやむを得ないということですが、一
方でそのメカニズムやリスクを理解してもらうためのコミュニケーションが大
事だと仰っています。こうしたことを総合的にとらえると、期待に働きかける
という政策のスタンスから、少し実態が変わってきたと思うのですが――名実
ともに変わったのかなという印象を受けるのですが――国民は 2%の達成を少
し長期化して捉えて理解したほうがよいのか、どういう捉え方をした方がよい
のでしょうか、お聞かせ下さい。
(答) 政策のスタンス自体は変わっていないのですが、一昨年辺りからサプ
ライサイドが少しずつ動き始めています。労働需給の引き締まりに対応して省
力化投資等が増え生産性の上昇に繋がっています。これは、非常に強い動きと
いうわけではないものの、サプライサイドの変化が物価上昇を抑制する効果を
想定していなかった部分があります。そのため、私は当初の予想よりは物価の
上昇が少し遅れ気味になったと思っています。ただ、トレンドが大きく変わっ
5
たかどうかはまだちょっとつかみにくいと思っています。政策 スタンスとして
は変わっていないのですが、新たな要素が入ってきていると思っています。
(問) 金融仲介機能への影響等も考慮して幅広く金融政策のスタンスを考え
るべきとのことですが、そうした色々な不確実性、要素次第では、2%に到達す
る前でも金融政策の正常化を真剣に考えるべきとの理解でよろしいでしょうか。
(答) 現在のような金融緩和が続くと、先程から申し上げている通り、累積
的な効果がありますから、副作用が目立ち始めることになるかもしれませんが、
現時点では、まだそれほど深刻な問題は生じていません。確かに金融機関の収
益は低下してきていると思いますが、それで政策を変えるような段階にはもち
ろんありません。金融政策にはプラスとマイナスの効果が両方ありますので、
今後も景気回復が続く中で、そのネットの効果 を見極めていくことが大事だと
思います。そして、マイナスの効果が非常に大きくなってきたということがは
っきりと認識されるのであれば、新たな政策を考えなければならないと思いま
すが、現時点でそうした心配はありません。
(問) 今まで、日銀は、高圧経済を狙って需給ギャップを引き締めることで
物価上昇圧力を高めて 2%を達成するイメージかと思っていたのですが、 本日の
挨拶要旨からすると 2%を闇雲に狙うものでもないし、需給ギャップの拡大とい
うか、そのオーバーシュートは望ましくないということになると、一頃よりは
その両面、その効果と副作用に関してより一層重要視されているという理解で
よろしいのでしょうか。
(答) ご指摘にあった高圧経済については、特にそういう意識があるわけで
はないのですが、重要なことは、先程来申し上げている通り、マクロの需要と
供給のギャップのバランスをとっておくということです 。これまで長期にわた
り供給サイドのキャパシティが需要を上回っていました 。金融緩和で需要をつ
けることで需給がバランスしている状態を高圧経済と呼ぶのであれば、それは
高圧経済かもしれないと思います。いずれにせよ、このままバランスをとって
6
いくことは必要ですが、現時点でも設備投資が伸び始めているとか、比較的底
堅い動きが出てきています。必ずしも政策だけではなく、経済がかなり自 律的
に動き始める可能性が十分出てきています。それから、プラスとマイナスの両
方の効果ということですが、これは先程来申し上げている通りで、両方の効果
を丹念に点検していくということだと思います。そこは予断を持ってこうでな
ければいけないということではなく、その時々の経済指標を素直に判断してい
くということだと思います。
(問) 現時点での委員の物価の見通しについて教えて下さい。2019 年度頃に
2%というのがこれまで出されていた見通しでしたが、この見方に変更はないで
しょうか。
次に 、あらゆる政策手段について考えていくというお話でしたが 、そ
の中には、バランスを欠いた時にイールドカーブの長期の部分を少し上げて、
調整するといったこともご検討されているのか教えて下さい。
(答) まず 1 点目の物価の見通しについて、私は、物価は、先程申し上げた
通り、供給サイドの変化により少し遅れているとの認識ですが、先行きの見通
しは全体の平均的な見方とそれほど大きく変わらないと思います。物価の見通
しには不確実性が伴います。今後の供給サイドの変化は、物価を見通す上での
不確実性の一つです。需要サイドは比較的コントロールしやすいかもしれませ
んが、輸出がどうなるかもよくみていく必要があります。いずれにせよ、全体
としてデフレ方向に戻っているということではないので、需給ギャップの動向
と供給サイドの動き、この 2 つを重視してみていきたいと思っています。
それから、 「イールドカーブ・コントロール」の調整は、これはもう先
の話で、先程申し上げた通り、その時々の景気の状況等にもよりますが、現時
点ではまだ考える必要はないだろうと思っています。景気の拡大が 、今後もか
なり長く続く中で、どこかでそういう状況に達したときに考えることであろう
と思います。
7
(問) 挨拶要旨の 10 ページで、将来的な物価安定の目標の実現を目指すため
の金融政策は一律ではないとありますが、この意味というか背景をもう少し詳
しく教えて頂ければと思います。これは手段は色々あるということなのか、取
り得る措置が経済環境によって違うということなのか、その辺り をお願いしま
す。
また 、トランプ大統領が安全保障を理由に自動車や自動車部品に追加
関税等の輸入制限の措置を指示すると報道されています 。こうしたことは、委
員が講演で仰っていた保護主義という世界経済のリスクの1つだと思うのです
が、今回のこうした指示について、世界経済、および特に輸出が重要なコンポ
ーネントを占める日本経済への影響についてご所見をお願い致します。
(答) 1 点目の「金融政策は一律ではない」の意味ですが、一般論として申し
上げていることで、金融政策を考える場合、どのような状況においても、その
時点で最適と思われる手段の組み合わせを使えばよいと思っています。従って、
例えば金利の変更もあり得るし、量の変更もあり得るし、その他色々な操作、
あらゆるものを総動員して、その時に一番適切なものを使えばよいと思います。
これしか使わないということは言わない方がよいと思っています。
2 点目について、一般論として、保護主義への動きは大きな懸念材料で
あることは間違いないと思います。日本経済は、ご指摘の通り、貿易への依存
度が過去 30 年間で大きく上昇していると思います。日本に限らず世界全体がそ
ういう動きになっています。この20~30 年の間に世界的にグローバル化が進ん
で、いわゆる国際的なサプライチェーンがほぼ 確立していますので、保護主義
的な動きの強まりは、世界経済全体の今後の成長にとって大きな懸念材料にな
ります。これはG20 等でも同じような認識だろうと考えています。
(問) 金融仲介に関して、まだ現時点では副作用は深刻ではないというお話
でした。今年3 月期ですと福島銀行などは赤字に転落していて、上場地銀だと6
割ぐらいが減益となっていますが、副作用が深刻というのはどういった状況な
のか、その目安についてご認識、お考えをお聞かせ下さい。
8
(答) 先程来申し上げている通り、今の金融環境のもとで年々コア業務の収
益が厳しくなっているということはご指摘の通りだと思います。個別の銀行に
関するコメントは差し控えますが、全体としてみた時にどうかといえば、まだ
大きな懸念材料ではないと思います。当然私どもも十分に副作用、その他の動
きをみていかなければならないと思っています。ただ、具体的にどのような指
標をみるかは、その状況によっても違います。一律にみるべき指標が簡単にき
まるものではないだろうと思います。半年に 1 回ずつ金融システムレポートを
出していますので、そうしたものとの整合性も保ちながら、金融政策を考えて
いきたいと思っています。
(問) 挨拶要旨の 11 ページに、今後の供給面の変化についても不確実性があ
るとのお話があります。今後、需給ギャップが適正な水準にあったとしても、
大きなリセッションのようなものが起こった場合には、正常化 や出口が遅れる
可能性というのは考えておいた方がよいのでしょうか。
(答) 問題は 2 つあるかと思います。まず 1 つ目は、需給ギャップがマイナ
スになった時にどうするかということです。今のところ当面マイナスになる可
能性はあまりないのではないかと考えていますが、仮にそうなった時には当然、
先程来申し上げている通り需給ギャップはある程度バランスしていることが大
事ですから、状況に応じた政策をとらざるを得ないということになります。こ
れは、金融政策だけの問題ではないかもしれません。財政政策もそれなりの対
応をされるのかもしれません。いずれにせよ、マイナスになった時の対応とい
うのを考えなければなりません。では、マイナスになった時に正常化が遅れる
かどうかということは、また少し別の話かもしれません。マイナスになったか
らといって、正常化が必ずしも遅れない方法もあるかもしれませんし、そこは
少し色々知恵を絞らないといけません。これまで、各局面で様々 な政策手段の
開発なりを行ってきたので、同じように色々な知恵を出して、工夫をしていく
ということは必要かもしれません。必ずしも正常化が遅れるということはない
かもしれないし、遅れることがあるかもしれ ませんが、なるべく安定的な方法
9
でやるのがよいだろうと思います。
以 上
10