2018年10月12日
日本銀行
櫻 井 審 議 委 員 記 者 会 見 要 旨
―― 2018年10月11日(木)
午後2時30分から約30分
於 秋田市
(問) 本日の金融経済懇談会でどのような意見が交わされたのか教えてくだ
さい。
(答) 本日は、地元の官民両方の代表の皆様から、当地の経済について大変
貴重なご意見を伺いました。まず、全体的に大変前向きな話を、複数の方から
伺いました。産業基盤をさらに強くしていくための取組みとして、機械関連、
航空機産業、そして ICT のお話を伺いましたほか、クリーンエネルギーに関す
る積極的な事業展開のお話などが非常に印象的でした。それから、人口が減っ
てきていること、そして労働力不足の問題に関して、これからどのように対応
していくかといったお話がありました。様々な試みをされていることがよく分
かりまして、官民両方で方向性が合っているという 印象を受けました。ただ、
これらは構造的な問題ですから、成果が上がるのに時間が掛かることでもある
という印象を持ったところです。
(問) 秋田県の経済の現状をどのようにご覧になっているか、また、この先
どのような可能性があるのか、有望な産業分野も含めてお話頂ければと思いま
す。
(答) 全体的な印象としては、現時点では緩やかな拡大、成長が着実に続い
ていると感じました。また、全体として、機械やハイテク分野も含めて、産業
基盤が想像していた以上に集積されていると感じました。一方、先程申し上げ
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たとおり、最大のネックは人口問題で、もし労働力や人口の問題がある程度緩
和されれば、かなり強い産業基盤ができるかもしれない、との印象を受けまし
た。それから、今後の可能性としては、クリーンエネルギーも含め、新しい産
業においてビジネスモデルを作 ろうという取組みがなされつつあるというこ
とで、全体としては、あまり暗い感じは持っておりません。
(問) 経済の発展のために人口問題がネックになってくるというお話ですけ
れども、それに関する具体的な対策など、本日の懇談会で印象的だった点を教
えて下さい。
(答) 本日は、かなり具体的なお話を幾つか伺いました。例えば経済界で、
非常に地道な活動だとは思いますが、企業の従業員や経営者も含めてもっと健
康に気を付けようといったキャンペーンを随分やっているとのことで、定年を
長くしていくことを通じて労働参加率の向上にもつながる話と理解しました。
また、労働力不足への対応だけでなく、高い能力や技術を伴う人材をどのよう
に確保するかというようなお話が随分あり、非常に興味深く伺いました。これ
らは教育訓練に関連するものでしたが、全体として皆様が非常に前向きに取り
組んでおられるという印象を持ちました。
(問) 県内の景気の現状について、本日の意見交換を通じて、印象が変わっ
た点を教えて下さい。
(答) 印象が変わった点を率直に申し上げると、まず当地に来て実際に見学
をさせて頂いたり、お話を伺ったときに、想像以上に産業基盤が強いと感じた
ことです。それから、予想していたよりも人口問題、労働力の問題がかなり深
刻だと感じたことです。私どもは金融経済懇談会で日本の各地に行ってお話を
伺う機会があるのですが、特に当地ではこれらの問題が決定的に大きいとの印
象を持ちました。
(問) 本日の懇談会の講演の中で、物価安定目標のみを重視して過大な需要
超過を政策的に作り出すことは、金融システム上の不安定性を高める可能性が
あるというご指摘をされていると思います。これは、2%の物価目標の達成前
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でも、現在の極めて低い金利水準を引き上げるなり、緩和度合いを調整するべ
きだというお考えを示したという理解でよいでしょうか。
(答) 現段階では、今回の講演でも述べさせて頂きましたが、7月の展望レ
ポートでこれまでの物価動向を分析した結果、需給ギャップ以外の様々な構造
的な要因や、履歴効果がかなり効いており、物価上昇に遅れが出ているのだろ
うと私は理解しています。2%の物価安定の目標の達成には、多少時間が掛か
るということが確かなことになってきたわけです。早くに達成できればそれに
越したことはないですが、想定していたよりは時間が掛かっています。このた
め、現在の需給ギャップがプラスになっている状況をなるべく維持して、その
効果を待つということではないかと思います。時間が掛かるということをもっ
て調整を早めるとか、そういう段階ではまだないと思います。今後、実体経済
の動きや物価の動向をじっくりとみ ていくことが必要な状況なのではないか
と考えています。
(問) 講演の最後の方で、不確実性の下での金融政策は慎重に実行すること
が適当との指摘について、大変示唆に富むと語っていらっしゃいます。これは
物価の伸び難い国内環境を考えれば、緩和政策はもう少し抑制的にやっていっ
た方が良いのではないかということなのでしょうか。
(答) 先程申し上げた通り、物価が2%に向かっていくという、例えば5年
前から考えていたことでみると、そのときには考えられなかった不確実性、す
なわち構造要因だとか、ヒステリシスの要因だとかが出てきて、物価上昇が遅
れてきています。すなわち、金融政策と物価の関係にかなり不確実性が入って
きていると思います。不確実性が高くなってきている部分について考えてみる
と、金融政策と物価との関係には特に不確実性が出てきている一方で、例えば
金融政策と需給ギャップとの関係には、それほど高い不確実性はないだろうと
考えています。従って、政策効果に不確実性が高いものに関してあまり大胆な
政策をとる必要はないだろうということです。現在でも実はかなり強い金融緩
和政策を採っておりますので、これ以上強くする必要はなく、暫くは現在の緩
和をしっかりと維持することによって、その動向を見守ることが大事だろうと
いう趣旨です。
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(問) 今言われた「大胆な政策をとる必要がない」というのは、今の時点で
追加緩和をやる必要がないと、そういう理解でよろしいでしょうか。
(答) 現時点では、もちろん先行きの不確実性は抱えているのですが、実体
経済は比較的順調に回復をしてきているということだと思いますので、これ以
上に強い緩和をする必要があるかというと、現段階ではないだろうというのが
今の考え方です。
(問) 講演の中で、やみくもに物価安定の目標を目指しても不均衡を高める
ということを踏まえ、足もとでは需給ギャップのプラスを維持していく、と述
べられています。この点について、例えば不均衡が高まったと判断できそうな
状況――その判断も難しいとは思うのですけれども――において、金利とか量
とか色々ある中で具体的に何をすべきだとお考えでしょうか。
(答) 不均衡の判断自体、大変難しいと思いますが、現在の需給ギャップは
もちろん不均衡ではなく、かなり均衡状態に近いだろうと思っています。すな
わち、需給ギャップ自体が推定値、計算値であり、多少の誤差はあるだろうと
思っておりますので、ほぼプラスになっているといっても、大きなプラスとは
考えていません。従って、今後不均衡が拡大するかということは、需給ギャッ
プがそれ以上に大きく、過大になっていくことを懸念するかどうかということ
になります。現在はもちろんそういう状況にはないので、今後はその点を慎重
にウォッチしていくということだろうと思います。
不均衡が高まったときにどうするかといいますと、不均衡には2種類
ありまして、上振れリスク――需給ギャップがかなり過大になっていく場合―
―もあれば、逆に下振れリスク――需給ギャップが小さくなってマイナスにな
る場合――もあるので、そのときの状況に応じて、政策の方向を考えていくと
いうことだと思います。そのときには、考え得る色々な手段の組み合わせを考
えていけば良いと思っています。
(問) 米国を中心とした保護主義の台頭、とりわけ米中貿易戦争の懸念が増
していて、本日も日経平均株価、昨日も米国株が大きく下げました。こうした
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問題が日本経済や金融市場に与える影響 についてどうご覧になっているので
しょうか。
(答) 貿易政策に関しては色々な動きがあり、具体的な言及は避けたいと思
いますが、一般論としてお話したいと思います。まず、過去 20 年あるいは 30
年近くの間、世界経済の発展は、国際貿易と海外投資によって支えられてきた
ということは間違いないと思いますし、それによってサプライチェーンもグ
ローバルに出来上がりつつあるか、ほぼ出来ているかもしれません。こうした
中、貿易が様々なかたちで自由に進まないということになると、そうしたサプ
ライチェーンが上手く機能しなくなる可能性もありますので、そこは少し懸念
材料だろうと思います。ただ、影響の大きさを予測できるかというと、それは
当然できませんので、その点は慎重に点検をしていくということに尽きるだろ
うと思います。中長期的には、きちんと、自由貿易なり国際的な資本移動の自
由を目指した国際協力の再構築の方向を探っていくべきだと思います。
(問) 持続性のある緩和ということですが、委員が想定される2%の物価目
標の達成時期の見通しが現時点でありましたら、 教えて頂けますでしょうか。
(答) 達成時期の予測は、今のところ大変難しいというのが本音だろうと思
います。2%の目標をずっと掲げてやってきて、2%の物価上昇を目指すプロ
セスの中で、実際に起こってきたことを分析した結果が7月の展望レポートと
いうことです。需給ギャップ以外の構造要因とか、過去の履歴効果とかが随分
効いており、これらが今後どういうかたちで消えていくのか、あるいは更に大
きくなるのか、なかなか読み難いということがあります。そうした中で、既に
需給ギャップがプラスに転じていて、ある程度均衡状態に近いところを保って
いますので、今はむしろそこを保つことによって、じっくりと2%へのプロセ
スを辿ることを見守ればよいのではないかと思います。 先程申し上げた通り、
不確実性がかなり出てきていますので、その方が政策としてはベターなのでは
ないかと思います。
(問) 本日、 日経平均株価が一時1,000 円安とかなり急落しました。委員は、
講演でも下振れリスクについて触れられていますが、この株価急落をどのよう
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に受け止めているかということと、先行きの下振れリスクとしてどのようにお
考えかという点を伺いたいと思います。
(答) 個別の株価の問題などについてコメントはできませんが、現時点で、
実体経済のファンダメンタルズは、米国も日本もかなり健全ではないかと考え
ています。企業収益などを考えても、かなり好調ですし、何らかの指標が株価
下落のきっかけになったのかもしれませんが、少しじっくりとみていくという
ことではないかと思います。一般論としていえば、こうした株価の動きが他に
どのように波及するのかしないのか、しっかりとみていくことが重要なのでは
ないかと思います。先程申し上げましたとおり、足もと、ファンダメンタルズ
は、先進国全体としてもしっかりとしていると考えています。ただ、こうした
ことが起こる、あるいは繰り返されるということになると、マインドなどにも
影響するかもしれませんので、その点はしっかりと注視していきたいと思って
います。
(問) 7月に物価見通しを下方修正されましたが、今の段階の物価上昇の勢
いをどのように認識されているのでしょうか。
(答) 現在も、特別に強くなっているということはないですし、意外と横ば
いという感じではないかと思います。天候要因やエネルギー価格要因など、短
期的には色々な影響を受けますので、その辺で少し短期的に色々な動きが出る
かもしれませんが、特別に良くなるということでもないですし、また、特別に
悪くなるということでもないと思います。毎月きっちりと点検していくという
ことに尽きるだろうと思っています。
(問) 本日の講演の中でも、今の金融緩和策の中での金融機関へのリスクに
言及されていると思います。今の金融緩和のもとでも、金融機関が収益的に厳
しくなっているというご認識はあると思いますが、その点、どこまでであれば
耐えられるのか、どこまで長く続けられるとお考えですか。
(答) 現時点で、金融システムは、個別行の問題はともかくとして、一般論
としていえば健全性は保たれていると基本的に思っています。もちろん、こう
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した金融情勢の下で、収益が上がりにくいのは事実でして、累積的な効果がた
まってくるだろう、このままいけばそういう方向に進むと思います。しかし、
現時点では自己資本や流動性は十分にあり、喫緊の対応の必要性は全くなく、
その点では安定性は保たれていると考えています。ただ、やはり、長くこうい
う状況が続くことを考えれば、収益が急激に改善することはなかなか考え難い
ですし、収益確保のためにある程度のリスクも抱えつつあると思いますので、
その点も含めて、慎重にウォッチをしていくということが一番重要だろうと思
います。モニタリングをしっかりとやっていくということだと思います。
(問) 講演の最後のところで、時間を掛けて金融緩和を継続していくことが
適当であると述べていますが、その前のところで、金融緩和を続けると金融と
か経済の不均衡が蓄積されると述べており、「時間を掛けて」ということにな
りますと、一層副作用が累積されると思います。2%の物価安定の目標の達成
に時間が掛かるということになると、目標達成に向けて緩和を続ければ、そこ
から副作用が生じますので、この際、2%という物価目標について、早期にで
はなく、中長期的な目標としていくということに関して、委員はどのようにお
考えですか。
(答) 2%の目標自体は、 私は変える必要は全くないと今でも思っています。
目標達成に時間が掛かるということになりますと、副作用が生じてくるという
問題はそのとおりであり、副作用と時間のバランスをしっかりと点検していく
ということが、金融緩和政策を続ける上で必要だと思います。その点では、多
少は今までと違う観点も入れながら、金融緩和を続けていくということだと思
います。基本はやはり、金融緩和政策を続けながら、2%の目標達成に向けて
進んでいくということですが、物価変動プロセスに不確実性があることを踏ま
えると、目標達成時期がどのようになるかという予測が、なかなか今出来にく
いということだろうと思います。当面現在の金融緩和政策を続けながら、副作
用への目配りもきちんとしていくことが必要だろうと考えています。
以 上
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