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201 8年2月1日
日本銀 行
岩 田 副 総 裁記 者 会 見 要旨
―― 2018年1月31日(水)
午後2時30分から約40分
於 大分市
(問) まず、本日の金融経済懇談会で はどのような意見交換がなされたで
しょうか。
(答) 本日の懇談会では、大分県の行政や経済界、金融界を代表する方々か
ら、地域経済の現状、課題のほか、日本銀行の金融政策運営に関して色々なご
意見を頂きました。極めて有意義な意見交換ができたと認識しています。まず
はこの場を借りて、ご出席頂いた方々に御礼を申し上げたいと思います。
本日の懇談会では、ご意見が多岐に亘ったため、全てを網羅して紹介
することはできませんが、私なりに席上で聞かれた話題を整理致します。
まず、足許の当地企業の景況感については、製造業を中心に回復の方
向にあるとの声が多く聴かれました。昨年の自然災害によってJR久大線の寸
断が続いており、観光面では本格的回復にはもう少しとのことでしたが、県全
体としてみれば景気は悪い状況にはないと伺いました。
こうした中、当地での課題として、人手不足と事業承継を挙げる声が
多く聞かれました。人手不足に関しては、待遇改善を図っても人が集まらず、
例えば建設業では仕事はあっても受注できない先も あるとのお話がありまし
た。もう 1つの事業承継に関しては、後継者不在のため、黒字でも廃業する企
業が増えており、地域産業の先行きに対する懸念を指摘する声 がありました。
また、経営者が高齢化していることによって設備投資意欲も減退している面が
あるという指摘もございました。これに対し、地域の商工会議所や商工会など
は、 関係機関と連携して、 事業承継のサポートに注力されていると伺いました。
金融界の方々からは、地域の景気は回復方向にあるものの、金融機関
経営としては厳しい環境にあるとのお話を伺いました。金利低下の影響から収
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益力が低下しており、低金利環境が長く続くと、円滑な金融仲介機能の発揮が
難しくなるとの意見もございました。
私ども中央銀行としての立場から、物価安定の下での経済の持続的成
長の実現や金融システムの安定性を確保するともに、大分県内の金融経済情勢
について、 大分支店が今後もきめ細かい調査、 広報活動を続けることを通じて、
当地の皆様の努力が より大きな実りへと繋がっていくようサポートして参り
たいと思っています。
(問) 大分県関係者から大分県の景気は回復傾向にあるとの話を聞いたとい
うことでしたが、大分県の金融経済情勢について、岩田副総裁はどのようにみ
ておられますか。
(答) 皆さんが懇談会でおっしゃった通り、あるいはデータからみても、大
分県の景気は、基調としては緩やかに回復している ということだと思います。
その中で、個人消費も、全体としては次第に底堅さを増していると思っていま
す。また、設備投資についても、持ち直しに向けた動きがみられています。雇
用・所得面は、労働需給が着実に引き締まりを続けており、雇用者所得は、振
れは伴っていますけれども、基調としては緩やかに増加している状況だと認識
しています。
先行きも大分県の景気は、前向きな循環がみられつつある家計部門を
中心に、緩やかな回復の動きを続けるとみられます。海外の政治経済情勢に関
する不確実性や地政学的リスクが県内経済に及ぼす影響等に注意する必要は
ありますが、今後開催される「国民文化祭、全国障害者芸術・文化祭」や「ラ
グビーワールドカップ」といった大きなイベントを好機に、県内経済がさらに
改善していくことが期待されると思います。
(問) 今回最後の会見ということで、岩田副総裁は 5 年前の就任会見の時に
は、2%の目標について、達成できなければ人のせいにしないとか、言い訳し
ないとおっしゃっていたと思います。また、著書では、説明責任について、生
ぬるいものではだめだとか、説得的じゃなければ辞任か免職だと、そうしない
と信用されなくなってしまうというお話でした。今日の講演を聴くと、だいぶ
お考えとか立場が変わったように思えるのですけれども、岩田副総裁自身がど
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う考えているのか教えていただけますでしょうか。
(答) 「人のせいにしない」というのは、「自分がまずできるだけのことを
やっているかどうか」ということを判断したうえでどうかということです。そ
れをしないで、色々な要因のためだ、主因はそちらにあるんだ、そして、金融
政策では物価を 2%へ上げられないということであれば、日本銀行の意味はな
いわけです。そういうことを申し上げたということです。日本銀行がしっかり
と、2%の「物価安定の目標」に向けた環境を作り上げることが必要不可欠な
条件だということです。そのうえで、何か足りないことや、逆に 2%へ引き上
げることを妨げる要因もあるわけです。そういうものに対して、外的な要因で
あればどうしようもありませんが、内的な、例えば政策要因であれば、それは
正していくことが必要であると、就任前から申し上げているのはそういうこと
です。つまり、色々な政策がありますが、金融政策がまずできることを精一杯
やったうえで、なおかつ他の政策が日銀のやっていることの逆風になることは
避けるべきだという考えは、就任前から変わっていません。
(問) 今日の講演では、随分財政についてたくさん述べられています。 2%
の物価が未だに達成されていない原因として、財政の緊縮があったというご認
識ではないかと思いますが、2014 年度の消費増税について、事前に岩田副総裁
は反対を表明されたということはなかったと思います。しかし、結果として増
税が悪かったというご認識のようですけれども、次の増税、予定されている増
税が 2019 年にありますけれども、これについては反対されていないという理
解でよろしいでしょうか。今日の講演の最後の方では、いろんな手当があるか
ら容認されているというようなご発言だったのではないかと思いますけれど
も、反対はされないのかということが1 点と、その増税を織り込んだ上で、2%
というのは 2019 年度に達成可能であるというふうにお考えなのかどうか。最
後に、 黒田総裁は2014 年度の増税についても、 増税すべきという立場でいらっ
しゃいましたけれども、次の総裁というのは、増税容認でも 2%達成というの
は近い将来、今の段階では 2019 年度ですけれども、可能であるというお考え
なのかどうか。この 3点お願いします。
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(答) 3 点というよりも、全て同じような観点だと思いました。まず、3 本
の矢が最初にあったわけですが、第二の矢が機動的な財政政策、第三の矢が成
長戦略という構造改革です。政府が日銀の金融政策について、緩和が足りない
からもっと国債を買えといったことを言うのは駄目であり、手段の独立性が重
要だと申し上げているわけです。政府はそうしたことに介入してはいけません。
2%の目標は共有していいのですが、その目的の達成手段に関しては政府は介
入しないというのが、社会的な標準なわけです。そうすると、逆も言えるわけ
です。政府が中長期的に財政を再建すると約束しているわけですが、どれくら
いが中長期であるのか、どのような手段でどのようなスピードで財政健全化を
図っていくのかという手段に関しては、政府・国会に任せるべきであり、中央
銀行の副総裁としてものを言うべきでない、つまり中立を保つべきだというの
が、私の考えです。自分が副総裁ではなく学者であれば、はっきりしたことを
言ったと思いますが、副総裁というのは政府の手段に対して中立を保ち、介入
しないという約束があるはずですので、個人的に思うところがあっても言うべ
きではないと思っています。
そうした中で、今回申し上げたのは、結局 5 年かかっても物価が上が
らなかった理由は、単に原油価格の下落だけでないと、この5 年間で思うよう
になったということです。それはなぜかと申しますと、原油価格の下落が止ま
れば、予想物価上昇率が 2%でアンカーされているアメリカやEU、イギリス
等では、物価がエネルギーを除いてもしっかりと上がってくるわけです。そこ
は日本と違うところです。ということは、予想物価上昇率が日銀の目標まで上
がってくることが大事ですが、上がる過程で、金融政策は一生懸命やっていて
も、他の政策が大きな逆風となった場合、予想物価上昇率が 2%でアンカーさ
れていない経済では、そうした逆風をまともに受けると、それをはねのけるこ
とはなかなかできないということです。そうすると、問題の 1 つは第二の矢で
あり、それを中心に本日は申し上げました。もう1つは構造改革です。生産性
を上げるためには、規制緩和や岩盤規制を取り払っていくことが大事です。
財政に関しては、中長期的に健全化を図り、持続可能性のある財政に
することが、重要な命題です。信認を失わないようにすることが大事ですが、
財政の健全化に向かっていく際には、今の金融政策と同様、経済・物価・金融
情勢を踏まえながら、スピード調整をしていくことが大事です。私は、財政を
今どうすべきと言っているわけではなく、一般論を申し上げたわけです。2019
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年度についても同様です。その時の実体経済、物価情勢、金融情勢を十分加味
しながら、例えば増税する場合にも全て赤字削減に使ったほうがよいのか、子
育てに少し使ったほうがよいのかなど、スピードを調整してくのがよいという
ことです。その1つの例として、結構うまく行っているのが、本日データでお
示ししたEUです。EUは今、対GDP比の政府債務残高でみると、財政緊縮
のスピードを落としているのにもかかわらず、財政が良くなっています。こう
した例もあることを考えながら、政策運営をしていくことが、金融政策の効果
を一層上げることになるということを、5 年間の経験を踏まえて申し上げまし
た。最後に、再任されないと確信していると言いましたが、いずれにしても今
後の金融・財政政策、構造改革のあり方について、最後の機会なので、ここは
申し上げたほうがよいのではないかと思いました。金融政策はすでに 精一杯
やっていますので、本日、私が申し上げた政策が伴えば、物価が 2%に達する
確率はさらに高くなると思います。
(問) 2 つあります。足許、世界のマーケットが若干動揺していまして、ド
ル安なのか円高なのか、また株安基調になっていますが、これについて副総裁
のご所見と、これがアメリカ発なのか、日本とか欧州発の要因もあるのか、分
析をお願いします。
2つ目ですが、今日の午前の講演で、11 ページ目で今の政策が非常に
最適なので、よほどこれより良いものがない限りは続けるべきだというお話で
すが、この「続ける」の定義 は、今の枠組みを続けるということなのか、 左
-0.1%、右ゼロ%を動かすな、ということなのか、もう少し細かくお願いし
ます。
(答) 現状は、少し我々が考えているよりも円高に進んでいる、ドル安が進
んでいる、予想したよりもそういう状況だと思いますが、これは私は、投資家
の皆さんが、日銀のやっている金融政策について十分ご理解なさっていないか
らではないかと思います。アメリカが出口に向かったら、あるいはECBが出
口に向かったら、日本もすぐに出口に向かうのではないか、あるいは金利をす
ぐ上げにいくのではないかと言われていますが、先程申し上げたように、日本
は 2%の物価からははるかに遠い状況です。今はエネルギーの価格が上がって
いますが、コストプッシュ型で物価が上がることは決して良いわけではありま
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せんので、それ以外の物価が十分上がってくること、そして、需給ギャップが
縮小しているから、あるいは予想物価上昇率が上がっているからこそ、物価が
上がっている、というメカニズムが働いていることが必要なわけです。そうし
たメカニズムを重視する観点からは、 現状の「イールドカーブ・コントロール」
が望ましいのですが、アメリカの金利が上がったから、日本も金利を追随して
上げるのでは、「イールドカーブ・コントロール」の意味がありません。それ
を投資家が理解しているのかどうかよく分かりません。日銀も金利の引上げを
もうすぐやるのではないかという予想があるようですが、これはマーケットの
誤解だと思います。
また、 今の政策が最適というのは、「イールドカーブ・コントロール」
の金利誘導目標が、現状では-0.1%とゼロ%ですが、これが適当だと思って
いるということです。これ以外の提案はありますが、今まで聞いた提案の中で
は、 現在のイールドカーブの曲線を大きく変える政策よりも、若干動きますが、
基本的には今の-0.1%とゼロ%というイールドカーブが一番よいのではない
かと思っています。経済・物価・金融情勢を考えながら、イールドカーブをコ
ントロールするのですが、今はすぐそれを変えるような状況にはありませんし、
おそらく暫くはないのではないかと思っています。
(問) 2点お願いします。1点目は、大規模緩和を5 年近く続けていますが、
その結果、副総裁の講演でもご指摘がありましたけれども、 2%には途半ばで
す。この結果も含めて、大規模緩和 5年の効果というのを改めて伺いたいと思
います。
もう1つは、先程、投資家が日銀の政策をしっかり理解していないと
いうお話がありましたけれども、これまで 2%が何度も繰り返し先延ばしされ
た結果、日銀のメッセージの信頼性というのが失われるとか、誤解を招くよう
な一因になったのではないかという指摘もあります。 この2点をお願いします。
(答) 5 年間で未だに途半ばであることの原因については、すでに講演で申
し上げたとおりで、付け加えることはあまりありません。要するに、消費増税
をきっかけにして物価が下がり始め、予想物価上昇率もそれにつれて下がり始
めたこと加えて、原油価格が 100 ドルちょっとから最終的には 20 ドル台まで
下がったことが、大きな要因でした。予想物価上昇率が 2%に近付く前に、消
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費増税や原油価格による逆風によって、足許の物価が下がったわけですが、日
本の場合には、もともと、予想物価上昇率が足許の物価で動くという面があり
ます。1 年目は、大規模緩和をやり、第二の矢、第三の矢も飛ぶと思われたか
らこそ、実はしっかりと予想物価上昇率は上がったわけです。レジームをチェ
ンジし、これからは経済が変わるという予想があったことにより、1年目は予
想物価上昇率が上がる力がありました。ところが、そうでなくなるのが 2014
年からです。それによってもう 1回、予想物価上昇率を上げることが、金融政
策では難しくなったわけです。ですから、今やっている「イールドカーブ・コ
ントロール」は、需給ギャップを縮めることに主眼を置いています。予想物価
上昇率がそれほど上がらなくても、名目金利を大きく下げれば、実質金利は下
がりますので、それによって需給ギャップを縮め、物価を上げ、それによって
予想物価上昇率を上げるというメカニズムを使っているわけです。そういうメ
カニズムを使わざるを得ません。要するに、予想物価上昇率を上げる手段がな
くなってきたということです。予想物価上昇率を上げるには、第一の矢も、第
二の矢も、第三の矢も、全体がリフレ・レジームになっていないと駄目です。
第一の矢だけがリフレ・レジームで、他が必ずしもリフレ・レジームになって
いないため、レジーム・チェンジによって、予想物価上昇率を上げるというメ
カニズムがなくなってしまったわけです。予想物価上昇率が 2%に上がってい
る国では、中央銀行が物価 2%を実現した実績があるので、原油価格があれほ
ど下がれば、やはり物価も下がるわけですが、予想物価上昇率は下がらないの
です。ですから、原油価格が戻ってくれば、今はまだ 2%には届いていません
が、エネルギーを除いても、日本より物価上昇率は十分高くなっています。そ
ういう意味では、日本銀行も 2%を見せる必要があります。物価の実績値が 2%
をオーバーシュートするまでマネタリーベースを増やすという、コミットメン
トによって予想物価上昇率を上げようとしているわけですが、まだ力が弱いで
す。ただ、2016 年の後半から、ようやく世界経済が立ち直り、貿易も良くなっ
てきている中で、日本でも予想物価上昇率が底を打って次第に上がってきてい
る状況です。2018年には、予想物価上昇率も上がってきて、需給ギャップと予
想物価上昇率の両輪で物価を上げていくメカニズムが、もう1回、回復してく
るのではないでしょうか。その回復の時に、経済・物価情勢を踏まえて、財政
緊縮のスピードを調整して欲しいと思っています。そうすれば、2018 年には、
政策の効果が強まり、物価が徐々に 2%に近付いていくのではないかと思いま
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す。
もう1つの、メッセージの出し方は非常に大事ですので、かなり注意
しているつもりです。もっとも、本日私が申し上げたことを、皆さんがどう伝
えるかによっても、これは随分違ってきます。ここで申し上げたことを、ヘッ
ドラインで全て誤解のないように伝えるということは、なかなか難しいはずで
す。例えば、黒田総裁が展望レポートと同じことを言っても、見出しはそうな
らず、明日にでも金利を上げるように受け取 られてしまいます。 日銀のメッ
セージの出し方が悪いと言われますが、本当の真意は、もっと詳しいものでな
ければ本来伝えられないわけです。しかし、ヘッドラインでは全て伝えること
はできませんので、切り取られるわけです。私の意見も、皆さんに本日おそら
く切り取られて、 どのような反応が出るか少々心配なわけです。 確かに、 コミュ
ニケーションは難しいのですが、コミュニケーションは本当はもっと深くしな
くてはいけません。 投資家が、ヘッドラインだけで見て判断する、 というコミュ
ニケーションでは困ってしまいますので、何をどうするかは日銀も随分考えて
はいますが、こうした真意を伝えることの難しさを、この 5 年間で痛感してい
ます。
(問) 次の体制に金融政策で望むことをお願いします。
(答) 次の体制では、今の枠組みよりもさらに良い枠組みが見つかり、それ
に絶対の確信が持てるということでない限りは、今の「イールドカーブ・コン
トロール」が望ましいと思います。これを 2%に向けて粘り強くやっていくこ
とが大事だということについて、市場にしっかりと理解が得られるようにする
ことです。先程のご質問にあったように、市場とのコミュニケーションにおい
て誤解がないようにする、ということは以前から 日銀の課題として一生懸命
やっているのですが、必ずしもうまくいかない面があ ります。次の人達には、
そうしたことに注意しながら、発言がどの様にとられてしまうかも含めて、丁
寧に市場に説明していくことが求められていると思います。
(問) レジーム・チェンジ、レジームが壊れているという話ですが、レジー
ム・チェンジのために何が必要かというのが 1点と、副総裁に求める資質、そ
れから教育国債の話がでていますが、それについてどう思うかをお願いします。
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(答) レジーム・チェンジをどうしたらいいかは、なかなか難しいと思いま
す。日銀の本当の真意を伝えることは、将来できると思いますが、具体的にど
の様にすればよいかは、本日ちょっとお話はできません。
(問) 副総裁の資質についてはどうですか。
(答) 私にあったかどうかは分かりませんが、私は最後のほうはあまり体調
が良くなかったので、1 つは、やはり健康ということも非常に大事だと思いま
す。もう1つは、今の日本銀行がやっている金融政策のメカニズムをよくわかっ
ていることが必要だとも思います。私のように体調を崩すようでは駄目だと思
います。
(問) 岩田副総裁は就任前からリフレ派の大御所というか、長年やってこら
れて、理論的支柱だったと思うのですが、岩田さんのメッセージとしてデフレ
は貨幣現象であると、マネタリーベースを増やせば予想インフレ率が上がるの
だということで、かなり多くの方が量を増やせばインフレは上がると信じたと
思うのですが、今日のお話を聞いていると、やはりそれだけでは駄目だったと
いうような話にも聞こえるのですが、どうお考えでしょうか。
(答) 今おっしゃったような理解があるということが、私の真意が実は伝
わっていない証拠です。マネタリーベースさえ増やせばデフレ脱却ができると
は、私の本を全部読んでもらうと書いていません。記者の皆さんは、どこかか
らその話を聞いて、ああそうかと受け取ったのでしょうが、私の本は読んでい
ないと思います。私の本の中には、金融政策だけに関する本と、もっと総合的
なパッケージを書いた本がいくつかあるのをご存知でしょうか。デフレ脱却の
ためには、ちょうど今のアベノミクスが 徐々にそれに近付いてきていますが、
要するに、様々な政策を組み合わせる必要があるということが書いてあります。
例えば、私は、構造改革はいらないとは言っていません。例えば、単に構造改
革をやるだけでは、失業という痛みが出てしまい、反対されて政治的に構造改
革ができません。ですから、まず、金融政策で痛みにも耐えられる経済を作っ
ていくこと、例えば、転職ができるとか、求人倍率が高い、就職氷河期ではな
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い、新入社員も入れる、そういった基盤を作ることが金融政策の役割です。金
融政策はそれに強いのです。構造改革によって成長率を上げれば、もっと豊か
な世界になりますし、物価の安定も近付きますが、その必須の条件は金融政策
だということを申し上げたい。そのように金融政策に力点が置かれているので、
金融政策をやればよいという理解になったのだと思います。
もう1つは、 量を増やすだけでなく、例えば、 短期国債だけではなく、
長期国債を買わなければならないなど、量をどうやって増やすかということを
申し上げました。あるいはもっと大事なこととして、コミットメントについて
申し上げました。つまり、この政策をやっても実は効かない、と言ってはいけ
ないのです。しっかりと、どのようなメカニズムがあるので、2%を達成する
まで日銀がコミットするのだ、だから先送りはしているけれども、2%の達成
目標は降ろしていない、と説明することが大事です。これがコミットメントで
あり、この枠組みの中で長期国債を買ったりすることによって、予想物価上昇
率が上がってくるわけです。単にマネタリーベースを増やすだけで、いつ金利
が上がり、早すぎる出口になるかといったことを人々が思ったのでは、予想物
価上昇率は上がらないのです。コミットメントを伴った量的緩和、あるいは
「イールドカーブ・コントロール」が大事です。そういう意味で、単純にマネ
タリーベースを増やせばよいと申し上げたつもりはありません。コミットメン
トが非常に大事です。FRBでは、2%を一時期ほぼ達成しましたが、雇用の
最大化を目指しているうちに、逆に 2%から遠くなりました。 FRBのマンデー
トは、雇用の最大化と物価の安定という 2 つです。このため、コミットメント
の力が強く、だからこそ皆が信頼するのです。日本も、コミットメントを強く
して、2%まで物価を上げるという経験をしないと、なかなか予想物価上昇率
は安定しません。従って、予想物価上昇率が安定するまでは、今の金融政策の
枠組みにコミットすることが大事です。安易に早く出口に出たいなどと言って
はいけませんし、2%の目標にまだ遠いにもかかわらず、正常化を急ぎたいと
か、非伝統的は嫌だとか、そうした態度は予想物価上昇率が上がらない 1番の
原因になります。そういう意味で、これだけ詳しく言わないと、実は真意が伝
わらないということです。そこに難しさがあります。
読んで頂きたい本があります。金融政策と財政政策、構造改革、女性
活躍など、そうしたことが全て書いてある、2001 年頃に出た八田先生との共著
があります。「日本再生に『痛み』はいらない」という本です。要するに、失
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業率が上昇するとか、就職氷河期を迎えるとか、そんな痛みはいらないという
ことです。どうしても、転職しなければいけないという痛みはありますが、失
業者が増加するとか、転職の機会がないとか、新卒が氷河期で就職できずに非
正規にならざるを得ないとか、そういう「痛み」を伴わないデフレ脱却の方法
があります、という本があり、そこに金融政策以外が全て書いてあります。構
造改革、女性の活躍、税制のあり方などです。それを読めば、考え方が変わる
と思うのですが、読むのは大変なわけです。記者の方々もそうだと思います。
従って、長い時間をかけて質問を受けて回答しないと、本当の真意が伝わらな
い、という難しさを、5 年間感じていたということです。その誤解を少しでも
解こうとしたのが、 最後の今回の懇談会でした。 これでも語り尽くせませんが、
本当は言い足りない。まだまだ私に対する誤解があると思います。金融を中心
に書いた本だけを読まれると、非常にミスリーディングだと思います。そうで
はない本があるのです。構造改革に触れたり、女性の活躍に触れたり、税制の
あり方を触れたりした本があります。特に私は今、女性が活躍する社会を作ら
なければ、日本の生産性は上がらないと思っています。男性よりも、女性のほ
う生産性の伸び代がはるかに高いのです。どの会議や懇談会に行っても、女性
がいません。ところが、私が学習院にいるとき、総代は女性が並びました。一
方で、男性という理由だけで就職できています。安倍総理は、そのことに気づ
いて、女性活躍を推進していますが、保育所をしっかり整備していなければ女
性は活躍できません。そういう意味で、女性が幹部になって生産性が上がる余
地は、男性よりも大きいと私は思っています。女性の生産性が上がれば税収も
上がります。そうしたパッケージの考え方が大事だということです。ミクロの
経済政策と経済安定政策と分配政策、基本はこの 3 つです。
以上